KnowRun

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Pawn Sacrifice

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私は精神力の98%をチェスに注いでいる。他はわずか2%だ

Netflixのドラマ「クイーンズ・ギャンビット」 が話題になっているようだ。

日本以外の国では人気ランキングのベスト10に入っている(”アベンジャーズがコナンに勝てない国”ならではの現象だ)。天才少女がチェスの世界チャンピオンを目指す物語で、みんな大好きわにゃ・テイラー=ジョイちゃんが出ている。先日見たが、王道の物語を演技と演出で魅せていてクールだった。

チェスの天才を描いた作品として私が連想したのが「完全なるチェックメイト」(Pawn Sacrifice)である。アメリカの天才チェスプレーヤー、ボビー・フィッシャーの生涯を描いた作品で、フィッシャーを「スパイダーマン(サム・ライミ版)」のトビー・マグワイアが演じている。マグワイアのピーター・パーカーを彷彿とさせる挙動不審感のある演技がボビー・フィッシャーによく合っている。

フィッシャーは”天才”の例に漏れず神経質な男であり、光や音に敏感であった。その描写は「THE GUILTY/ギルティ」のように印象的に表現されている。

また、そのチェスに対する真摯さゆえか敵を作りやすかった。他の作品でいうなら「ビューティフル・マインド」や「イミテーション・ゲーム」のような雰囲気である。ただし、フィッシャーに(映画上の)ハッピーエンドは訪れない。世界チャンピオンになった後も精神状態は悪化し続け、放浪罪で捕まったり(自身もユダヤ系なのに)反ユダヤ発言を行ったりと波瀾万丈な人生を過ごした。チェスにおいて想定される局面は10の120乗だが、天才にとってはチェスのほうが遥かに単純なのかもしれない。

生涯を通してアメリカのポーンとして犠牲になったフィッシャーが”ボード”から降りた瞬間は映画上では描写されないが、映画として正しいと感じた。ビターな作品ではあるが、静謐さがあり私好みの作品だ。